結果が良かった判断は、いつも良い判断なのでしょうか。逆に、結果が悪かったときは、必ず選び方を間違えていたのでしょうか。
麻雀では、相手の手牌や次に引く牌が見えないまま、手を進めるか、失点を避けるかを考えます。この「分からないことを残したまま決める」という点を入り口に、日常の仕事や小さな企画の判断を整理してみます。
この記事の主題は、期待値と引き際の考え方です。麻雀の強さと経営能力の関係を断定するものではなく、麻雀を比喩にした筆者の考察と、説明用の仮定例をまとめています。
麻雀の比喩から考える「判断」と「結果」の違い
麻雀では、手牌を育てても和了(あがり)に届かないことがあります。一方、危険を伴う選択が、ある一局では良い結果につながることもあります。結果だけを見て、そこまでの判断の質を決めるのは難しいところです。
仕事でも、準備した企画が採用されなかったり、試しに作ったものが思いがけず反響を得たりします。ただし、現実の仕事には相手との相談や調査によって情報を増やせる場面があります。麻雀と仕事を同じ仕組みだと扱う必要はありません。
比喩として取り出したいのは、判断した時点の情報を振り返る姿勢です。「何を知っていて、何が分からず、それでもなぜ選んだのか」を残すと、結果が出た後に検討しやすくなります。
期待値は、複数の結果を確率で重み付けした平均
結果がいくつかに分かれる場合、期待値は、それぞれの結果の値に起こる確率を掛け、合計して求めます。OpenStaxの統計学教材も、この計算を離散的な確率変数の期待値として説明しています。出典:OpenStax「Mean or Expected Value and Standard Deviation」
期待値 = 各結果の値 × その確率、をすべての結果について足したもの
ここで大切なのは、何の値を平均しているかをそろえることです。売上だけを比較するのか、費用を差し引いた収支を比較するのかで、意味が変わります。成功時だけの金額を見て、失敗した場合を省くと、比較に必要な情報が欠けてしまいます。
また、期待値は一回の結果を予告する数字ではありません。平均としての見込みと、今回実際に起こる結果は区別します。出典:OpenStax・期待値と短期の結果の説明
仮定の企画二つを、同じ条件で比較する
以下は計算の説明用に作った架空の例です。実在する案件の成功率や収益実績ではありません。二つの小さな企画について、同じ期間内の結果を「成功」「不成功」の二つに分け、準備費用はどちらの結果でも発生すると仮定します。
| 比較する項目 | 企画A | 企画B |
|---|---|---|
| 成功する確率(仮定) | 30% | 70% |
| 成功した場合の売上 | 30,000円 | 10,000円 |
| 不成功の場合の売上 | 0円 | 0円 |
| 結果によらず発生する準備費用 | 5,000円 | 2,000円 |
| 成功時の収支 | 25,000円 | 8,000円 |
| 不成功時の収支 | −5,000円 | −2,000円 |
| 収支の期待値 | 4,000円 | 5,000円 |
| 必要な作業時間(固定と仮定) | 10時間 | 5時間 |
| 作業1時間当たりの期待収支 | 400円 | 1,000円 |
Aの計算は、25,000円 × 0.30 +(−5,000円)× 0.70 = 4,000円。Bは、8,000円 × 0.70 +(−2,000円)× 0.30 = 5,000円です。
この条件では、収支の期待値でも作業時間との比較でもBが大きくなります。ただし、時間当たりの値は、人件費を別に支払った後の利益や、時給の保証を示しているわけではありません。ここでは時間を金額の費用に換算せず、判断材料として併記しています。税金や追加費用なども扱っていない単純化した例です。
計算の正しさと、見積もりの確かさを分ける
もしBの成功確率を70%ではなく40%と見積もるなら、期待収支は8,000円 × 0.40 +(−2,000円)× 0.60 = 2,000円になります。Aを同じ条件に据え置けば、収支の期待値の大小は逆転します。
式が正しくても、入力した確率が曖昧なら結論も揺れます。「成功率70%」の根拠が分からないときは、正確そうな数字で結論を固めるより、少ない負担で試す、追加の情報を集める、複数の見積もりで比較する、といった選択肢を考えます。
さらに、平均が良くても、不成功時の損失や必要時間が自分の許容範囲を超える場合があります。期待値の大小に加え、失っても対応できる範囲、他の仕事への影響、企画の目的も確認したいところです。
引き際は「今までの努力」だけで決めない
麻雀で「オリる」と言うときは、和了を目指すより、失点を避ける方向へ切り替える判断を指します。この考え方を仕事に置き換えるなら、「ここまで頑張ったから続ける」だけでなく、これからの見込みを比較することが主題になります。
すでに支出し、回収できない費用はサンクコスト(埋没費用)と呼ばれます。OpenStaxの管理会計教材は、選択によって変わらない過去の費用を、これからの選択肢の比較に含めない考え方を説明しています。出典:OpenStax「Identify Relevant Information for Decision-Making」
例えば、すでに10時間使った原稿に、あと5時間追加するか迷う場面を想定します。判断する際は、追加の5時間で何を改善できるか、別の作業に使う場合は何ができるかを比べます。
ただし、「過去のことはすべて無関係」という意味ではありません。すでに得た調査資料や学び、残っている約束、取りやめに伴う追加費用は、今後の選択に影響します。回収できない過去の支出と、これから使える資源・発生する費用を分けることがポイントです。
始める前に、続ける条件と見直す条件を書く
結果が出てから考えるだけでなく、始める前に再検討の条件を置く方法を提案します。次の表は小さな企画を想定した例で、すべての仕事に当てはめる基準ではありません。
| 決めておく項目 | 問いの例 |
|---|---|
| 目的 | 売上、学び、読者の反応など、何を確認したいか |
| 使える範囲 | 追加できる時間や費用はどこまでか |
| 見直す時点 | いつ、またはどの作業が終わったら再検討するか |
| 続ける条件 | どの情報や反応が得られれば次へ進むか |
| 止める・変える条件 | 何が分かったら中断、縮小、方向転換するか |
引き際を決めることは、失敗を前提に諦めることではありません。状況が変わったときに、続行、縮小、延期、中断といった選択肢を検討しやすくする準備です。新しい情報が得られれば、条件自体も見直します。
結果が出たら、判断の前提も振り返る
良い結果なら自分の判断は正しく、悪い結果なら運が悪かった。そう整理してしまうと、改善点を見落とすかもしれません。次の三つを分けて記録すると、振り返りが具体的になります。
- 判断時の情報:何を確認し、どんな見積もりで選んだか。
- 実際の結果:予定と違った点は何か。時間や費用はどう変わったか。
- 次の修正:見積もり、情報の集め方、実行の手順のどこを変えるか。
一度の不成功で手順全体を捨てる必要はありませんが、「不運だった」で終える必要もありません。前提が外れていたのか、実行に課題があったのか、情報が足りなかったのかを検討します。成功した場合も、同じ条件で再現できそうかを確認します。
麻雀の比喩が役立つのは、見えない情報や結果の揺れを意識する入り口としてです。仕事の具体的な場面への置き換えは、麻雀の考え方を仕事で振り返る記事でも扱っています。
期待値と引き際を、問いとして使う
「平均として何を見込めるか」「見積もりの根拠は何か」「これから追加する時間や費用に見合うか」。この三つを問い直すと、期待値は数字を出して終わる計算ではなく、判断の前提を整理する道具になります。
まずは、迷っている小さな作業について、目的と見直す時点を一行ずつ書いてみてください。正確な確率が分からなくても、何を調べる必要があるか、どこまでなら試せるかを具体化することはできます。
参考資料
- OpenStax:Introductory Statistics 2e, 4.2 Mean or Expected Value and Standard Deviation
- OpenStax:Principles of Accounting, Volume 2: Managerial Accounting, 10.1 Identify Relevant Information for Decision-Making
資料確認日:2026年10月3日。企画A・Bの数値、比較表、判断メモは本記事で作成した説明用の仮定例です。特定の事業や投資の収益予測ではありません。


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